「近代競技とスキー」
以前、このコーナーで書いたのですが、冬季の八方尾根;第1ケルン付近に立って風景を見ている時「この風景が見られるのもリフトのお陰・・」と痛感したことがありました。リフトの無い時代、積雪期に第1ケルンまで登るとなると、本格的な登山家でないと無理だったでしょう。通常では行く事の出来ない場所を体験させてくれる”スキー”というスポーツの素晴らしさをその時、再認識しました。
本来、登山をして、それから滑り降りるのが元祖アルペンスキーですから、文明の力で相当に様変わりしたことになりますね。(まっ、それが現実と言えばそれまでですが・・・)TOK先生もよく言われていますが、スキーが他のスポーツと違うのはそんな所だと思うのです。
話は変わって、皆さんは実弾射撃をされた事はありますか?私は海外に行くとよく射撃場に行くのですが、アクション映画のイメージとは程遠いですね・・(笑)忘れもしません!生まれて初めて45口径のハンドガンを撃った時、とんでもない代物だと感じました(笑)弾装の横から猛烈に炎が出ます!手に硝煙反応が着くの当然だと思いました(笑)
さて、今回はオリンピックでも正式種目になっている射撃競技と重ね合わせて、日本のゲレンデスキーの現状を考えてみたいと思います。その前に、射撃競技とはいったいどのようなものか考えてみましょう。我々が射撃をするとすれば、一番ポピュラーなのはやはり紙の標的を射撃して技量を競い合うものになるでしょう。しかし、本来は狩猟(戦闘)などの目的で獲物(相手)を撃つ事が射撃の目的だったはずです。自然の中で、より的確に獲物を仕留める事が求められ、その練習が時代と共に先鋭化し、現在の射撃競技に枝分かれしていったのです。
紙の標的を撃つ・・獲物を狙わない射撃競技はいったい何を目的としているのでしょうか?紙の標的を狙う事にどれだけの意味があるのでしょうか?(射撃を否定するものではありませんので念の為・・笑) 射撃競技もそうですが、近代スポーツのほとんどは本来の目的が忘れ去られ、少し別の目的が発生しているように思います。まずは自分自身の目標達成感、そしてそれを裏付けるための他人からの賞賛・・。他人よりも優れている自分をアピールすることが目的の大きな一つになっているのではないでしょうか?
それはそのまま日本のゲレンデスキーに当てはまると思います。自然を破壊してコースを造り、リフトという電力消費マシンを使用し、人々が絶え間無く斜面を移動している・・。私の場合、スピードや斜度の克服、ターン弧のコントロール等の達成感を個人の楽しみとして滑っていますし、もちろんそれを楽しいと感じています。しかし、スキーとは何か?というアルペンスキー発生のプロセスを考えると、私のスキーはあまりに本来のスキーから”かけ離れた存在”になっていると思えるのです。その点で、最近のTOK先生の日記に書かれているニュージーランドに関する話題は、私にとって非常に共感できる内容でした。その中でも特に心を打った4つの文章をここに挙げたいと思います。
@「技術をいくら習得しても,それが実際の大自然で使い物にならなかったら....技術を習得した意味が無いのです。」
A「まさに悪雪の権化と言ってもいいほどです。この様な大自然そのままの状態が残されている場所では,申し訳ありませんが「カービング技術は何の役にも立ちません」
B「みずから“巨大練習コース”を作り続けている大スキー場がいくつもあります」
フィールドによって求められるテクニックが変化するのは当然とはいえ、カービングスキーと、その性能を最大限に生かした先鋭的なテクニックと言うものは”ゲレンデスキーが煮詰まった結果・・”以外の何物でもないでしょう。スキーを大きな”樹木”に例える時、技術戦などで表現される先鋭的テクニックは残念ながら”枝葉の部分”になると断言せざろうえません。それに影響される基礎スキーは”基礎”という言葉の意味が失われ、”ゲレンデスペシャル”もしくは”基礎スキースペシャル”となっているのです。本来”基礎スキー”とは幹の部分の技術をマスターするためのものだったはずです。
また、TOK先生はこうも書かれています。
C「だったら【TOK】が常々言っている“キャスター・ターン”だって“One of them(その内のひとつ)”で,そんなに強調するほどのことでも無いんじゃないの?....と思われるかもしれません。確かにそうです」
しかし、断じてそうではないのです!私が思うに”キャスター”は幹の部分にあたる技術だということです。根幹の技術であれば応用幅があるので、当然、あらゆる雪質・斜面に対応可能ですし、スペシャル(技術選、モーグル、フリーライド・・etc)をマスターする上で大切なベースになるはずです。
以前、TOK先生がよく使われていた言葉、根幹の技術の向上・・すなわち”枯れたスキー”を目指したいものです。
(枯れた:人柄や技芸が深みのある渋さをもつようになる。円熟する。「枯れた芸」)
(2004/09/21 UP)
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