スキー板からの情報を、身体に伝えてくれる大事な道具「スキーブーツ」…これもスキーをする上で大切な要因です。
スキーブーツで大切な事が幾つかありますが、私の経験では「靴の前傾角」が最もスキー滑走に影響を与えると思います。この事に初めて気付いたのは、昔、ヒモの靴からバックル様式の靴に変わった頃に発売された「スコット」というスキーブーツを使っていた時でした。この靴をご存知の方は少ないと思いますが、非常に単純な靴で、ケミカルブーツの走り、でもありました。従来の靴に比べて非常に軽量で、前傾角を簡単に3段階に調整できる様になっていました。その靴で、前傾角の違いが滑走フィーリングに大きな影響を及ぼす事を知ったのです。
前傾角を深くしてスキーに乗ると、テールが外に振りやすくなり小回り系がやりやすくなります。逆に前傾角を浅くして、スネが起きる様にすると、テールでの雪面グリップがしっかりして方向安定性が良くなります。前傾角が深いと、荷重点(支点)がつま先側になるし、浅いと荷重点がかかと寄りになるということです。つまり前傾角は荷重点の位置に大きな影響を与えるのです。同じ板に乗って、いろいろと前傾角を換えて乗ってみましたが、その角度によって、まるで違う板に乗っている感覚を味わいました。
スキーの性質でもお話ししましたが、大回り系で、方向安定性を望むスキーヤーはテールでの雪面グリップが大事になります。そういう人には”前傾角を浅め”に調整することが大事です。また、スキーの振りや操作性を重要視し、スキーのトップで雪面を捕らえて行くスキーヤーは”前傾角深め”がいいでしょう。
この観点から,ブーツの硬さや柔らかさの「フレックス」を見ることも大事です。柔らかいと前傾しやすく,また硬いとしにくくなります。ですから切れやスピードを追求し,雪面グリップを良くしたい人はフレックスが硬めのものがイイでしょう。
スキー操作の上で最も影響を与えるのは「前傾角」,「フレックス」ですが、効率良い雪面抵抗を捕らえるには「スキー靴の左右への傾き=カント角」を無視するわけにはいきません。実際滑っていると、自分ではもう少しエッジの効きが良くてもイイ筈なのに、思ったより効いていない…という経験は良くあることです。こんな時は「カント角」を疑ってみるのも必要な事です。調整の仕方は「スキーQ&A」でも解説していますが、あくまでも「足裏全体でフラットに雪面を捕らえること」が目的です。そのため、O脚の人は足のインサイドに詰め物をして足裏の圧を一定にするのが一般的です。しかし、カント角を深くして、エッジの効きを良過ぎるようにしてしまうのも問題です。常にエッジの効きが働いて、特にカービングスキーを使っているときなど、思いがけない時にターンが始まってしまった、などということも起こりかねません。
スキーブーツの最大の課題は「雪の情報を的確に身体に伝え、また自分の思いを素直にスキーに伝える」ことですが、履いている時の「快適さやフィット感」も大事なことです。もし、部分的に靴のどこかに足の部位が当たって痛みを感じる時は、すぐに脱いで調整しなくてはいけません。そのまま我慢して履いていると、マメが出来たり、軟骨が出来たり、後で大変な思いをする事になります。私がこれまでの経験からアドバイスできるのは、この様な場合、「インナーブーツを切り取る」のがイチバン、ということです。当たる部位のインナーをカッターナイフなどで切り取ってしまうだけです。良くシェルを機械で膨らます人が居ますが、元に戻りやすくシェルにとってもあんまり良い事だとは思えません。インナーを切り取ったら、ガムテープ等でしっかり塞いでやれば、ガムが入っているインナーでも漏れる事はありません。私は1シーズン、約120日滑りますが、この様なやり方で、2、3シーズンは持ちます。
スキーブーツはもしかすると、スキー板の選択より大事なことかもしれません。足裏感覚を敏感に感じ取れるモノを選ぶようにした方がイイでしょう。4、5種類の靴を履き比べてみると、敏感な靴と、そうでない靴の違いがよく解ります。出来れば「前傾角」と「カント角」の調整機構がついているのがベターでしょう。
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