【TOK】のスキーコラム

カービング神話への警告


(メルマガ No.0024 2-6-2002 より)

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  最近「カービングスキー」を使用中に二件の事故が発生しました。その二件ともスキースクール教師が関わる事故でした。


  そのひとつはベテラン教師“K.M”さんの事故です。
  彼はこれまで30年近くスキー教師をしてきました。最近はホテルの経営が忙しく,実際の指導現場にはあんまり出れませんが,過去に数度デモ選に出た経験があります。あと数点…というところまで何度か行きましたが,惜しくもデモには認定されませんでした。彼の深雪滑走のうまさは誰もが認めるところでもあります。その彼が,カービングスキーを使用し,事故に遭ってしまいました。
  今,店頭にはカービング以外のスキーはほとんど見られません。新しい板で新雪を楽しもうと思った彼も,仕方なく店員が勧めるカービングスキーを買ったのでした。「エキストリーム」に近い“R”を持った板です。ベテラン教師の彼も,あまりにも軽率に店員の言いなりになってしまいました。これまで「スキーテスター」として一緒にスキーテストを経験したことのある彼が,うかつにも最近のスキーがどれほど強い「ネジレ剛性」を持っているか?ということに思いが至らなかったのです。
  そのスキーを履き,先ずそぉーーっと滑ってみたそうです。「ホホー…意外に楽にクルッと回るじゃないか…(^I^) これなら少しスピード出してもOKだな?」…。スピードを出して滑った彼はあまりにも良いポジションに乗り過ぎました。板はその性能を遺憾なく発揮し,雪面をしっかりグリップしました。その直後スキーのトップがターン内側に回りこみ,気が付いたら体が外側に投げ出されていました。腰に痛みが走り,しばらく動けませんでした。カウンターを食らうようにターン外側に弾き飛ばされたのです。
  今,彼は,なんとかフロントに立てるまで回復しました。


  もうひとつの例です。その事故に遭ったのは“H.M”さんです。
  “H.M”さんはスキースクールの同じ教師仲間で,技術選でも大活躍し,数度デモにも選ばれた人です。その彼が転倒したわけでもないのに信じられない事故に遭ってしまいました。来年発売予定のニューモデル「SLのカービングスキー」を使用し,レッスンをしている最中の事故でした。場所は八方尾根スキー場のある急斜面での出来事です。
  滑り始めて数ターンしたところで,かなり良い感じの雪面抵抗を感じたそうです。そしてさらに外力を求めるべくスキーを踏み込んだその瞬間です。右ひざ辺りに信じられない衝撃が起こり,訳が解からないまま気が付いた時はもう右足に激痛が走っていました!。脛骨に立てに押しつぶされるように圧がかかり,グシャッと割れ,その骨が膝に突き刺さってメチャメチャに壊れ,靭帯も切れてしまいました…。カービングターンによる圧の力に骨が耐えられなかったのです。かなりの高いところから飛び降りでもしない限りあり得ない事故で,「スキーでこのような例を見たのは初めてのケース…」と医者も言っていたそうです。
  今,彼は大手術をし,入院中です。経過は良好ですが,圧迫骨折が直った後,靭帯の手術が待っているということです。


  この2件の例以外にも,ワールドカップレーサーがカービングスキーを使用していて腰や膝を痛めたニュースが良く聞かれます。
  良いポジションに乗り,スキーの性能を引き出せば引き出すほど信じられないほどカービング特性が生きます。ですが…それだけ何Gもの圧が人体に掛かって来ます。スキーの名手…と言われる人ほどカービング特性を活かしたターンをしようとします。でも,良い滑りをすればするほどその裏側に大きな危険が隠れていることを知らなければなりません。

  スキーの怖さを吹聴したいのではありません。
カービングターンに潜む危険性を知って欲しいと思うのです。
  板の性能はスキーイングに大きな影響を持っています。特に最近の製造技術の向上により,いろいろな性質をスキー板に持たせることができるようになりました。それだけ選択の幅が広がり,誰でも簡単にカービング体験ができるようになりました。しかし,もしその選択を誤ったり,身体能力を超えたカービングターンをしようとすれば,かなりの危険があることをスキーヤーは認識する必要があります。

  二本の線がきれいに残るような滑り方「レールターン」を指向するスキーヤーが結構多いのですが,二本の線を残すにはスキー板に相当の「ネジレ剛性」が要求されます。「ネジレ剛性」が強いとズレが無くなり雪面抵抗がかなり強く返って来ます。カービング要素のターンをしようとすればするほどこの「ネジレ剛性」の強い板を選ぶことになります。
  テクニカル,クラウンだけでなく,1級受験者の中にもカービング要素を出そうとしてこのような板を使っている人が少なくありません。よくよく気を付けないと,前2件のような事故に遭うことがあるかもしれないことを,知って欲しいと思います。

  以前は「ズレやすい板をいかにずらさないで滑るか?」がスキー上手のポイントでした。今は「ズレにくい板をいかにずらして滑るか?」…がポイントかもしれません。

  カービングスキーもこのような危険性の多いスキーだけではありません。適度なカービング要素が楽しめる板もたくさんあります。その選択は「試乗会」で実際に乗ってみて試してみることでしか体験できないと思います。これからはもっともっと試乗会でスキーを試し,自分の体力,指向にあった板を選択をすることが大事だと思います。

  「カービングスキー」がダメなわけではありません。その選択を誤ったり,何が何でもカービングターン,という思考が悲惨な結果を生むことになる…そう思います。
  大げさですが「“カービング”でなければスキーじゃない…」という神話は消えて欲しいものです。
  スキーシーズンはまだ中盤です。カービングにこだわらない楽しいスキーをして欲しい…そう願っている【TOK】です。
                          

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